69.トヨタ生産方式の応用
実は、F社のある役員に同行して、R社を訪問しました。この会社は、半導体の後工程を担当している会社です。半導体の後工程とは、ウェハ製造を前工程というのに対して、チップへの切断、そのチップのパッケージへのダイボンド、各ピンとの間を接続するワイヤボンド、そして全体をモールドで固める、一連のパッケージング工程を言います。
一般にトヨタ生産方式は、JIT(Just In Time)とか、かんばん方式とか言われてたいへん有名ですが、これが、自動車や携帯電話のようなアッセンブリ工場ではなくて、半導体の後工程に適用されて、工期半減、トータルスループット2倍化を実現していたことに大きな驚きを感じたのです。具体的な例を挙げると、工期を短縮するために、後工程のセル化を行っていました。従来は同じ工程の設備をずらっと並べて、一括して作業することによって全体の効率をあげる量産独特のやり方をしていましたが、これを1台のダイボンダと複数台のワイヤボンダをセットにしてセル化することにより、工程間の負荷バランスを調整しながら、小ロットでも、すぐにアウトプットがでるように工夫しているのです。
また、ごみを溜めないようにするという観点では、徹底的に平面を作らない、平面を作るとそこにはごみが溜まるという考え方で、平面面のすべてがグレージングか金網で作られていました。見える化という視点では、徹底的にロッカーを廃止し、コンビニのように必要なものを透明袋に収納してフックに引っ掛けるやり方をしていました。例えば、治工具の管理ですが、ロッカーに入れていると要る物も要らないものもごっちゃまぜに収納されることが多いのですが、コンビニのようにフックに引っ掛けると、必要なものが必要な数だけ用意されていることが一目で分かり、不要なものはすべて片付けることができます。設備のレイアウトも徹底して作業者の動線に合わせたもので、ぎりぎりまで隣接させて、人の動きが最小になるように工夫されていました。さらには、設備を斜めに置くことにより一度に全部の設備の動作状態をみることができるように工夫したり、移動距離をゼロにするために直角に設備を置いたり、とにかく見栄えよりも生産性第一で考えられていました。
このような考え方は、コンサルタントに依頼して実現したのではなく、トヨタ生産方式の真髄を徹底的に勉強して、自分たちで考え出したそうです。その根幹となるものは、「気づく人づくり」と「ラストマンマインド」と「徹底的に真因を追究する」という3つのキーワードだと紹介がありました。
よく「人づくり」が大事だと言われます。しかし単に「人づくり」といってもいろんな「人づくり」があり、全部を要求するとスーパーマン作りになり、結果として実現できません。最初のキーワードの「気づく人づくり」というのは要求が具体的です。何をするにしても、まず気づかないと行動には繋がらないという観点で、「気づく人づくり」と言っています。すべての改善は、ここが問題だなあとか、こうやったら改善できるぞとか、とにかく気がつかなければ何も始まらない訳ですから。「ラストマンマインド」とは、自分が最後、後にはだれもいないと思って、最高の仕事品質を実現する心だそうです。
これらの考え方は、工場現場だけではなく、我々営業現場にも応用できると思います。どれかひとつでも取入れたいと思います。