6.連続ホームラン
さあ、今度はハーフレートコーデックの開発である。半年しかない。デッドボールでも1塁に出なければならない。担当者は頑張った。寝食を忘れて頑張った。離婚されそうになった技術者もいる。
基本的にハーフレートコーデック以外はディジタル2号機の流用で、原低設計を進めたもの。徹底的にデザインレビューを行った。繰り返し繰り返し行った。これが功を奏した。実験室で基本性能を確認してほぼ問題がないことから、量産ラインで確認したら、全部合格してしまった。だから、この機種は設計変更をしていない。基板だけ2箇所改訂したが、これは設計変更ではなく、生産の都合によるものであった。部品点数600点のディジタル3号機(V133X)は全図面が副番Aというのは奇跡的だった。
ところが、これが新しい文化を産み出した。開発部門はきちんと設計すれば量産立ち上げ時に生産ラインに技術者を張り付ける必要がないことが分かった。全技術者が次期種の開発に専念できた。もちろん生産部門の技術者も立ち上がったが、この機種以降、設計者が現場に張り付くことはなくなった。直行率の改善も現場主体に行われるようになり、技術者は真に設計の変更のみに対応するようになった。これだけ開発品質のよい機種だから、当然市場不良も少なくどんどん売れる。120万台売れた。正真正銘のミリオンセラー商品誕生である。
このように、一旦、いい方に回ると不思議にどんどんよくなる。それまでどんなに開発費を積んでも振り向きもしなかったデバイス開発メーカーが、開発費を自己負担してでも開発させてくれ、セカンドメーカーでよいから開発させてくれと言ってくる。ディジタル機(PDC)は、この段階で完全にブレークした。夢のような連続ホームランであった。