180.温故知新(古きをたずねて新しきを知る)
「島根の文化力」という演題で、1995年から2001年まで東京芸術大学の学長をされていた、澄川喜一(すみかわきいち)さんが話をされました。島根県出身で、現在の肩書きは彫刻家です。日本芸術院会員で紫綬褒章のほかたくさんの受賞をなさっています。ちょっと脱線しますが、作家で医者の森鴎外も島根出身です。森鴎外はミュンヘンに5年いて、そのときにオペラとか美術解剖学を学んでいた関係で、芸大発足時に講師をしたことがあるそうです。(日本画の大家である横山大観も受講したという記録があります) 澄川先生は、現在、2011年度完成予定の高さ634mの新東京タワー、東京スカイツリーのデザイン監修を務めておられます。
その講演の中で、たいへん面白い話がありました。東京タワーは一辺80mの四辺形から立ち上がっていますが、スカイツリーは真下に地下鉄があって、それよりも狭く一辺70mでかつ三角形から立ちあげないといけないという条件で、東京タワーの約2倍の高さにして、かつ、だんだん上に行くほど丸くなる難しくて面白いデザインだそうです。地上350mにレストランが、450mに空中展望台ができるので、今まで見たことのない景色が楽しめるはずと話されていました。
そんな狭いところに建てるスカイツリーのモデルは何だと思いますか? 法隆寺の五重塔だそうです。法隆寺は皆さんがよく知っているように聖徳太子が建てられたものですが、実際にはそれは焼失していて、現在のものは711年に建て直されたものだそうですが、それでも木造建築で世界一古い1300年前のもの。地震の多い日本で何故倒れないか。温故知新、五重塔には素晴らしい秘密があると言われるのです。
それは何かというと、芯柱(しんばしら)構造と呼ばれるもので、1重目から4重目までの屋根は四点柱と側柱で芯柱を取り巻くように組み上げられており、5重目だけで芯柱に取り付けられているそうです。そうすると地震で揺れたときに、個々の屋根が別々の固有振動数で揺れるので、ちょうどいろんな振り子がぶら下がっているような動きになって、ゆれ同士が打ち消されて、全体がひとつの周波数で共振することはなく、倒れにくい超制震構造になっているそうです。コンピュータのない時代に、どうやって計算したのか、ほんとうに素晴らしいことだと思いますが、もちろん釘など使わず、全部木でできていますので、異質な材質間でのきしみもおこりません。これとまったく同じことをスカイツリーで、直径2.3m、厚み10cmの中空パイプを溶接しながら作り上げているのが現在の状況だそうです。色を決めるだけでも1年かけて検討し、照明も最初から考えてあるそうですから、完成が非常に楽しみです。