閑話休題(74)現代語訳「学問のすすめ」福沢諭吉 /斉藤 孝(訳)=ちくま新書
第16編 正しい実行力をつける(明治9年8月出版)
独立には2種類ある。形のあるものと形のないもの。さらに分かりやすく言えば、品物についての独立と精神の独立の区別である。品物についての独立とは、世間の人がそれぞれ財産を持ち、それぞれの仕事をして、他人の世話や厄介にならないように、自分と自分の家の始末をすること、一言でいえば、人に物を貰わないということだ。形のない精神の独立は、その意味は深く、その関連するところは広くて、一見独立ということとは無関係と思われることであっても、実はその意義を持っているものがあったりする。例えば、酒に呑まれない、物欲連鎖にはまらない、他人の真似をしない、贅沢の習慣に染まらない、などをあげることができる。
別の視点であるが、議論と実行とは両立させなければならない。そもそも議論というのは、心に思うことを言葉として発したもの、あるいは書き記したものである。いまだ言葉にせず書き物にもしなければ、これは志という。だから、議論は外界の事物に関係しないものと言える。一方、実行というのは、心に思ったことを外に表して、外界の事物に接して処理することであるから、実行には必ず制限がある。だから、議論と実行とは、齟齬ができるだけ小さくなるように、バランスをとらなければならない。
大きな間違いを起こさないためには、非常に大きなことからとても小さいことまで、他人の働きに口を出そうとするならば、試しに自分をその立場において、そこで反省してみなければいけない、職業がまったく違ってその立場になれないというのであれば、その働きの難しさと重要さを考えればよい。