閑話休題(68)現代語訳「学問のすすめ」福沢諭吉 /斉藤 孝(訳)=ちくま新書


第10編 学問にかかる期待(明治7年6月出版)

 

学問をするには志を高くしなくてはならない。飯を炊き、風呂を沸かすのも学問である。天下の事を論じるのも学問である。けれども前者は簡単で、天下の経済は難しい。およそ世の中で、簡単に手に入るものにはそれほどの価値はない。物の価値というのは、手に入れるのが難しいことによるのだから。ところが、いま学問をする者は、難しい学問を避けて簡単な学問に向かうよくない傾向がある。初歩の学問で満足してはならない。

 

学問の目的は、「何者にも束縛されない独立」という大義を求め、自由自主の権理を回復することにある。日本人として外国人と競うことこそ学問の目的である。学問をするならおおいに学問をするべきである。農民ならば大農民になれ。商人なら大商人になれ。学者ならば、小さな生活の安定に満足するな。粗末な着物、粗末な食べ物、暑い寒いを気にせず、米も搗くのがよい、薪も割るのがよい。学問は米を搗きながらでもできる。人間の食べ物は西洋料理には限らない。麦飯を食って、味噌汁をすすって、文明の事を学ぶべきである。