閑話休題(65)現代語訳「学問のすすめ」福沢諭吉 /斉藤 孝(訳)=ちくま新書


第7編 国民の2つの役目(明治7年3月出版)

 

一国の人民は国法を重んじて、人間はそれぞれ平等であるということを忘れてはいけない。他人が自分の権理を侵害するのが嫌ならば、自分もまた他人の権理を妨害してはならない。国法を正しく守って、万人平等の大義に従わなければならない。もし不正不便な箇条があれば、一国の支配人である政府にその旨を説いて、静かにその法を改めさせるべきである。政府が自分の意見に従わなければ、一方ではさらに力を尽くして説得し、一方では現状の法に我慢して時機を待つべきである。

 

同時に、一国の人民がすなわち政府である。国中の人間がみな政治をする人間ではないので、政府というものを作って、これに国の政治を任せ、人民の代理として事務をさせる。人民が本来家元であり、主人なのだ。政府は代理人であり、支配人なのだ。例えば、100人の中から選ばれた10人の支配人が政府であり、残り90人が社員のようなものである。政府のやっていることは、役人個人の事業ではなく、国民の代理となって一国を支配している、公の事務という意味である。だから、政府というものは、人民の委任を受け、その約束に従って、国中の人を上下貴賎の区別なく、それぞれの権理を発揮させなければいけない。法を正しくし、罰を厳格にして、一点の不公平もさしはさんではいけない。

 

人民は国の本来家元であるから、国を守るための費用を払うのは、もちろんその義務である。だから、この出費のとき不平を顔にあらわにしてはいけない。およそ世の中に、何がうまい商売かといって、税金を払って政府の保護を買うほど安いものはない。事の軽重は、世の中の文明に貢献するかどうかで重要性が決まる。